人生の苦労を甘いサツマイモづくりに活かしてーー戸塚芋農園の夢

カテゴリー │浜松市の野菜農家さん

浜松 ライター 菅原

浜松市には、7つの行政区があります。そのうちのひとつである南区は、東南部の7つの地区で構成されているエリア。区域の南部は遠州灘に面し、南北に0.6キロメートルほどにもなる中田島砂丘が広がっています。

その砂地を活かし、エシャロットやタマネギ、サツマイモなどの生産が昔から行われてきた地域でもあります。しかし、近年は、生産者の高齢化と後継者不足から遊休農地が増えているそうです。

そんな南区の松島町で、サツマイモづくりに励んでいるのが戸塚芋農園の戸塚敬太さんです。農業を通じて経営も学べる企業に自社を育てようと、日々、畑づくりと向き合っています。戸塚さんが農業に目標をもつ理由とは何でしょうか?お話を聞いてきました。


工場の仕事から農業へ、きっかけは福祉施設での「そうじ」の仕事

浜松 ライター 菅原
▲戸塚農園の畑より。ハートの形をしたサツマイモの葉。

農業には、導かれるようにして辿りついたという戸塚さん。はじめに、戸塚芋農園やご自身のことを教えてもらいました。

「祖父の代から、ここ松島町で農業をしてきました。約4ヘクタールの畑(※)で、メインのサツマイモをはじめ、タマネギやニンジンをつくっています。

商売上手だった祖父は、生産にかかる費用や売り上げについても教えてくれましたが、とくに実家を継ごうとは思いませんでした。仲の良い両親を見て育ったので、結婚して奥さんを持てればそれで幸せだと思っていたんです。社会人のスタートは地元の工場の作業員で、その後は勤め先を転々としました」

(※)阪神甲子園球場の総面積(3.85ヘクタール)ほどの広さです。


人生の苦労を甘いサツマイモづくりに活かしてーー戸塚芋農園の夢
▲戸塚芋農園で収穫されるプクプク太ったサツマイモ

戸塚さんは仕事の要領を掴むのが早く、工場長や役付きのポジションに就くことが多かったそうです。

「転職をして(別の会社で)、一般の作業員から再スタートしたこともあります。それでもいつの間にか、また役付きのポジションにいるんです。部下も大勢いましたね」

そんなある日、リーマンショックが起きました。2008年にアメリカの大手投資銀行が経営破たんし、世界中に金融危機が広がった一件です。戸塚さんが勤めていた企業もリーマンショックの影響を受けた製造業のひとつだったそうです。トップがとった選択は、リストラでした。

「部下の肩をポンとたたいて、『明日までで良いから』と告げるのが僕の役目になりました。みんな、自分が成績の評価をしたチームメイトたちですよ。気持ちの切り替えがうまくできなくて、その企業を退職しました。

新しく仕事を探そうとしたときに、なぜか掃除の仕事をしたいと思っている自分がいました。どうしてか分かりません。とにかく掃除の仕事をしたかったんです。市内のとある福祉施設で、掃除の仕事に就きました。そこは、先天的に奇形の身体で生まれてきた人々が身を寄せあう施設でした。感覚ですが、数百人は生活していたのではないかと思います」

その施設で1年ほど、戸塚さんはそうじの仕事をしていたといいます。

「呼吸をするのだけで精いっぱいの人、理性で物事を判断できない人たちもいらっしゃいました。面会に来るご家族の姿は、ほとんど見られません。どうしてこのような奇形が発生するのだろうと考えたときに、食はひとつの要因なのではないかと思いました。食べ物が、お母さんの健康を支えるからです。

僕は良い野菜づくりをしたい、いえ、しなければならないと思いました。そんな使命感が湧いたのは、実家が農家だということもあったと思います。両親に頼みこんで、2011年から農業に携わりました」


サツマイモづくりを極める中で気付いた今の野菜に足りていないもの

戸塚農園
▲昨年の秋に行われた収穫祭のひとコマ

戸塚芋農園のサツマイモは、ほっくりとして甘いと評判だそうです。戸塚さんは、おいしいサツマイモづくりを追求する中で、近年の農業がかかえる問題点に気付いたそうです。

「問題なのは、畑に入れられる栄養が限られてしまうことなんです。主に使われる化学肥料(窒素・リン酸・カリを基本の成分とする)だけでは、野菜にとって偏った『食事』になってしまいます。さまざまな栄養を取り入れて育つことが、野菜にとっては重要です。

戸塚芋農園では、サツマイモが求めている栄養はいろいろと畑に入れてあげることを大切にしています。そうすることで、おいしくて健康的なサツマイモが育ちます」

戸塚さんが考える「良い野菜」とは、豊富な栄養が含まれている野菜なのですね。戸塚さんは、サツマイモの特徴を活かした栽培もしているそうです。

「おいしいサツマイモをつくるためには、水をしっかりかけることですね。サツマイモは、熱帯原産の植物なので湿気が大好きですからね。

それから、今の時期(8月から9月にかけて)の日光が大好きなんです。朝の7時から9時ころに、いっせいに気孔を開いて光合成をするんですよ。かわいいですよね」


戸塚芋農園を、若者が経営を学べる企業にする

浜松 ライター 菅原

農業と向き合う中で、戸塚さんは自分の中に眠っていたある目標に気付いたそうです。戸塚芋農園の今後について教えてくれました。

「戸塚芋農園を『教育』ができる会社にしたいというのが今の目標です。僕が考える教育とは、お金の流れがわかることです。祖父は、お金の話を家族によくしてくれました。いくらの費用がかかっていて、何円で売れたから利益は何円だというように。

僕は、企業勤めをしていても『お給料をもらう』という感覚がありませんでした。あったのは『売り上げを立てる』意識です。なぜなら、給与は売り上げの中から支払わるからです。

戸塚芋農園でも、お金の稼ぎ方と使い方を学ぶ機会をつくりたいですね。現代の若者は欲がないと言われますが、本当はエネルギーが有り余っている若い人も多いと思ってるんですよ」

結婚できれば幸せだと考えていた戸塚さんですが、いつしか若い人の将来を考える経営者になっていました。

「目標のためには、事業を拡大しなければいけません。お客さんがほしいと思える商品にするためには、6次化もしなければいけないと思っています。ゆくゆくは周りの農家さんを巻き込んで、稼げる農業を一緒に実現できるようにもなりたいです。

トップは一生懸命じゃなければいけないと、経営者の先輩から教わりました。先輩方と比べれば、僕なんかまだまだです。これからもチャレンジを続けていきたいと思っています」

浜松 ライター 菅原
▲戸塚芋農園のサツマイモは、そろそろ収穫の時期を迎えます。



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この記事へのコメント
はじめまして、最近さつまいもの歴史について調べることがあり
日本とさつまいもって深いなと感じるようになりました。
https://gotimo.jp/satsumaimo-rekishi-ibaraki-hoshiimo/

さつまいもも様々な栄養を与えてこそよりおいしいお芋に育つのですね。
勉強になりました。
Posted by るり子ママ at 2022年01月10日 05:29
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